朝の小さなひと言が、僕に突き刺さった
ある朝のこと。
普段通りに朝食を囲んでいると、嫁がポツリとつぶやいた。
何気ないようでいて、僕には到底聞き流せないひと言だった。
僕は驚きと動揺を隠せず、思わず声を上げる。
「そんなこと言うもんじゃない…どうした?そんなに仕事が辛いのか?」
すると嫁は、少し拍子抜けしたように笑いながら
「え?普通に言うよ?」
とケロッとした表情を見せ、また別のつぶやきを重ねた。
その瞬間、僕の胸の奥に不安が広がった。
軽い冗談で済ませるには、あまりに気になる様子だった。
新しい職場と心の葛藤
嫁は昨年から、新しい職場に通っていた。
「仕事内容は楽しいよ」と言ってはいたが、問題は人間関係だった。
新人として入ったその職場で、上司や先輩たちとの距離感に悩み、プレッシャーを感じていたのだろう。
毎朝「嫌だなぁ…」とつぶやきながら支度をし、時にはトイレに駆け込む。
僕がリビングでコーヒーを飲みながらニュースを眺めていると、背後で聞こえてくるため息と水を流す音が、それを物語っていた。
1日、1週間、1か月…。
そんな朝が積み重なり、気がつけばもう一年が経っていた。
僕の態度も、嫁を追い詰めていたのかもしれない
その間、嫁から「ラブラブしよう」と誘われても、僕は拒み続けていた。
正直、僕自身の気持ちが冷めてしまっていたからだ。
嫁の態度や言葉にすれ違いを感じ、距離を置きたくなることも多かった。
けれど、そんな冷たい対応が、もしかしたら嫁をさらに追い詰める原因になっていたのかもしれない。
そう考えると、胸の奥がギュッと苦しくなった。
小さなきっかけが、心を変えた
「子どももいるんだし、そんな言葉はもう二度と口にするなよ」
僕は、できるだけ静かな口調でそう伝えた。
怒りではなく、不安と心配から出た言葉だった。
実は僕自身、かつて鬱の経験があった。
だからこそ、嫁が口にしたそのひと言が、軽い冗談としては受け止められなかった。
それは「小さなSOS」かもしれない――。
そんな考えが、頭を離れなかった。
それから僕は、嫁への接し方を少しずつ変えていった。
「行ってらっしゃい」に笑顔を添えたり、夜には「今日もお疲れさま」と声をかけたり。
以前なら気にも留めなかった小さなことに、僕は意識を向けるようになった。
まとめ
誰でも「なんとなく憂鬱な朝」はある。
だけど、その裏には言葉にできない不安やプレッシャーが隠れているのかもしれない。
嫁のあのひと言をきっかけに、僕は改めて「大切な人を気にかけること」の意味を考えた。
小さな変化かもしれない。
それでも、そっと寄り添うことで支えになれるなら――
僕はこれからも、そんな気持ちを大事にしていきたいと思う。