ある日の夜、娘が泣きながら僕にこう訴えてきました。
「パパー、私も兄弟が欲しいよー。妹が欲しいよー。一人じゃ寂しいよー」
その言葉に、僕の心は張り裂けそうになりました。
母親に怯える娘の心の声
どうやらその日は、娘が一日中、嫁に怒られていたようでした。
仕事の合間に何度も怒られたと聞いて、僕は娘の表情を見ただけで、心が限界に近いことに気づきました。
もう、娘にとって嫁は「安心できる存在」ではなくなっていたのです。
そして、怒られる理由は決まって「言うことを聞かないから」。
嫁の怒りの根っこには、「自分の思い通りに動いてほしい」という感情が透けて見えました。
娘はそれに応えられないことで責められ、「強迫観念」のような気持ちに追い詰められていたのかもしれません。
兄弟が欲しい──その言葉に込められた願い
娘が言った「兄弟が欲しい」という言葉。
それは単純に妹が欲しいというより、「自分と同じ立場の味方が欲しい」「孤独から救われたい」という、幼いながらに切実な想いだったのだと思います。
母親からの安心感を得られない今、彼女は“もうひとりの味方”を心から求めていたのでしょう。
それでも応えてあげられない理由
だけど、僕はすぐに返事をすることができませんでした。
心の中でこう思っていました。
ごめん、今は子どもをつくることはできない。
パパはママと、そういう関係を築ける状態じゃないんだ。
過去のことを思い出してしまうから。
娘を授かったときの経験は、僕にとって嬉しさだけではなく、大きな心の傷でもありました。
あの頃の記憶が、どうしても僕の中から消えないのです。
娘を想うからこそ、選べなかった未来
もう一つの理由は、今の嫁が、娘にとって「安心できる母親」になれていないという現実。
この状態で新たな命を迎えたとしても、家族の空気はもっと重たくなってしまうかもしれない。
娘に苦しい思いをさせたくないからこそ、僕は今、新しい命を迎える決断ができない。
そして何より、それは僕自身のわがままも含まれていることだとわかっているからこそ、胸が締めつけられるのです。
それでも、心からこう伝えたい
ごめん。
パパは、お前の願いに今すぐ応えてあげることができない。
でも、パパはずっとお前の味方だよ。